「労働力輸入論」の死角
「毎日新聞『論点』」(2006年09月02日朝刊)掲載
渡辺 英俊

 この20年近く移住外国人の人権支援に取り組んできて、今また風向きの変化を感じている。1990年前後、バブル経済のピーク時にも、「外国人労働者受け入れ」論が盛んだった。バブル崩壊後はこれが逆風に変わり、入管当局の締めつけや「外国人が増えると犯罪が増える」といった事実無根のゼノフォビア(外国人への敵意)宣伝が横行してきた。「9.11」事件以降は暴風だった。

 だが、風がどう吹こうと日本に住む外国籍人口は確実に増え続けてきた(外国人登録数は20年間で2.3倍)。入管政策がどう決めようが、必要な労働者は入ってきているし、これからも来る。すでに日本経済は海外からの労働力を受け入れなければやっていけなくなっている。その点が議論の死角だ。

 この事実を端的に示すのは、非合法で働くオーバーステイ(超過滞在)労働者の動向だ。日本政府は一貫して「不法就労」の取り締まり強化を唱ってきた。最近では、5年間で「不法滞在者」を半減させるという。

 しかし、オーバーステイを減少に向かわせたのはバブルの崩壊による雇用の減少だった。そして減った分も、実は研修生・技能実習生で肩代わりされただけだ。この3者の合計は30万人前後で、これまでの10年余の間変わっていない。

 救援の現場で見える研修生・実習生の実態は、労働法規を無視した低賃金・長時間労働の強制だ。これは、中小零細企業の超低賃金労働力需要を満たすための制度だ。制度が悪用されているのでなく、それが制度の隠れた目的なのだ(外国人研修生問題ネットワーク編「外国人研修生─時給300円の労働者」参照)。

 入管政策は、非合法の労働者を別の名目に移動させるだけで、なくすことはできない。国際的な経済格差がつくり出す労働力移動と、国内の低賃金労働力の需要により、入管政策のコントロールの及ばぬダイナミクスで人は動く。

 「外国人労働者受け入れ」の論議も、少子高齢化による労働力不足を「労働力輸入」でまかなうという発想を卒業すべきだ。「これからどう入れるか」ではなく、「すでにいる」人たちをどうするかを出発点とすべきだ。日本にはすでに200万人の移住者が住み、この社会を共に担っている。その処遇がきちんとできていないことが問題なのだ。

 人権の視点から、労働ビザの新設、アムネスティによる在留の保障、労働法規の完全適用、医療へのアクセスの保障、多文化教育の実施、人種差別をなくす仕組み造りなど、足元の課題をまず見直すべきだ(移住労働者と連帯する全国ネットワーク編「外国籍住民との共生にむけて─NGOからの政策提言」参照)。

 外国籍者の権利が平等に保障され、不当に買いたたかれる労働力でなくなれば、必要とされる所へ人は来るようになる。来過ぎて困る事態は起こらないだろう。仕事がなければ日本は決して暮らしやすい場所ではないからだ。

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